ヨーガ・スートラ1-11

[1-11] 記憶とは、かつて経験した対境が失われていないことである。

Recollections are engendered by the past, insofar as the relevant experience has not been eclipsed. ||11||

 

<解説>①この定義は、記憶の二面である把住(蓄積)と再生のうち、把住作用の方をあげているようにみえるが、そうではない。把住の方は、行(ぎょう;サンスカーラ)すなわち潜在意識の中に残存する印象の中の一部をなしている。

 

<解説>②かつて経験された対境の印象は潜在意識の中へ残存するのが把住の記憶である。この潜在的残存印象が消え去らないで、自分と同形の対境を再生するのが記憶である。記憶再生の時は、もとの経験とは逆で、把住する作(はた)らきよりも、把握される対象の方が主になる。

 

<解説>③もとの経験という中には、心(チッタ)の五つのはたらきのすべての場合が含まれている。すなわち、正知ないし記憶はすべて記憶の原因となるのである。記憶と夢とは、類似の心理現象であるが、夢の場合は、潜在意識内の印象が再生するとき、ビジョンとしてあらわれる。

 

<解説>④また夢はことの経験をゆがめたり、それにつけ加えたりする。

 

以上で(五つの)心のはたらきについての説明は終わるが、この五種類のはたらきの下にはまた多くのスブクラスのはたらきがあり、時と所と人に応じて、複雑多用な心理現象を表すのである。